デモクラシーに関する新しい理論は、様々な形で展開されているが、中でも注目を集めているのはR・ダールの「ポリアーキー」論である。その理論は、各国政治の比較や歴史的発展を分析できるように、独自の用語法が用いられ、抽象度がきわめて高いモデルとなっているが、問題関心は明快であり、それさえ把握しておけば、そう理解し難いモデルではない。
デモクラシーの条件として考えられるものには、言論・結社の自由、平等な選挙権・被選挙権、自由で公正な選挙、選挙された公識者による政策のコントロールなど、数多くのものがある。しかし、これらの条件を、すべて完全に満たすような国は、現実には存在しないであろう。そこで、各国がどれだけの条件をどの程度に満たしているかを比較する意義がでてくる。
このようにダールは、デモクラシーの度合いを測定できるようなモデルを考えていく。その際、用語が混乱しないように、一般的なデモクラシーという言葉をさけ、「完全ではないかも知れないが、比較的民主化された体制」をポリアーキー polyarchy と呼ぶ。つまり、デモクラシーという言葉のほうは、デモクラシーの諸条件のすべてを完全に満たした、理論的に純粋なタイプにとっておき、現実に存在する体制については「ポリアーキー」と呼び分け、区別する。
デモクラシーの条件を、不完全だが近似的に満たした体制が「ポリアーキー」なのである。このような用語法は、「ポリアーキー」よりも条件の充足度の劣る体制について、「準ポリアーキー」という類型を立てていることからも分かろう。
デモクラシーの条件をどれだけ満たしているかを、測定するについては、モノサシがなければならないが、ダールは諸条件を大きく二つに分類して、抽象度の高い二つのモノサシを作っている。
「理想の体系としての民主主義と、理想への不完全近似として案出されてきている制度的装置を区別しておくことは大切である。そして同じ用語が両方の意味に用いられる場合、不必要な混乱や、本質とは無関係な意味論的議論が、分析の妨げとなることは、経験の示すとおりである」。ダール『ポリアーキー』(三一書房)21ページ。