関連:プライマリーバランス
- 参考:小林慶一郎「財政悪化、なぜ問題か 」朝日新聞2004年12月5日
- 日本の公的債務の特徴
- 貸手のほとんどが国内の企業や投資家
- 日本人が日本人から借金をしている
- 流動性の問題
- 純債務は大きくなくても、債務総額はGDPの160%。この巨額債務について、貸手が一斉に返済を求めれば、政府の支払能力をすぐに超えてしまう。いわば、公的債務の「取り付け」である。現実にはまず起こらないが、「取り付けが起きるかも知れない」という不安心理が広がれば、国債市場が神経質になり、国債の価格と金利が不安定になる可能性がある。
- 国債金利は、家計や企業の借入金利に連動するので、もし、金利が不安定化すれば、家計や企業の経済活動を大きく損なうことになる。
- 信頼性の問題
- 投資家が、国債を持ち続けるのは、「政府がいずれ歳出削減か増税を行って、財政の持続可能性を維持するはずだ」という信頼を持っているからといえる。
- しかし、公的債務の量が増えれば増えるほど、財政再建に必要な歳出削減や増税の幅は大きくなる。
- また、どのタイミングで財政再建を実現するのかによって、政策の幅や手順も様々である。その結果、財政の先行きについて、人々の予想もばらばらになる。
- 投資家の財政に対する信頼は、政府が将来行う政策行動とそれに対する予想に大きく依存している。公的債務が大きくなるほど、将来の政治や政府の気まぐれ(についての予想)によって、現在の投資家の信頼が動揺するリスクが大きくなるわけである。
- このリスクが高まると、投資家が神経質になり、「流動性の問題」が引き起こされ、結果的に金利の不安定化と経済活動の阻害が起きる。
- 「所得再配分の問題」
- たしかに公的債務は日本人が日本人に借金をしている構図だが、一般に国債保有者は富裕層であり、低所得者層は保有していない。政府が国債償還のために増税するなら、税で国民から集められた資金が富裕層の国債保有者に支払われることになる。
- つまり、公的債務残高が大きくなると、低所得層から富裕層への逆所得配分が強化されるかもしれない。所得格差が拡大し、社会問題を引き起こすだろう。
- 近代の自由主義経済の出発点は、民間の経済活動から、政府権力の恣意的な介入を排除することであった。
- 財政への不安が高まり、金利が不安定化するという問題は、税や歳出をめぐる政府の恣意的、裁量的な意思決定が、金利という市場経済の基本条件を恒常的にゆがめてしまうことに等しい。
- 公的債務の膨張は、市場を財政に従属させ、結果的に、自立的で健全な市場秩序への信頼を壊してしまう。それは長期的に市場経済への信頼も損なう。
2009-01-21 (水) 03:08:35 (4912d)