ある国が武力攻撃を受けた場合に、これと密接な関係にある他の国が自国の安全を脅かすものとして共同して防衛にあたる権利。この権利を行使する国に対して、直接かつ現実の武力攻撃があることを必要としない。国連憲章では加盟国に認めている。
平和の実現を目指す現代国際法の原則として、国際法は、武力の行使や武力による威嚇を禁止している。紛争は、武力ではなく、平和的な手段によって解決されなければならない。
例外として、国連体制下で武力行使が許容される場合が二つある。
国連憲章51条は、武力攻撃が発生した場合に、安保理が平和を回復するため必要な措置をとるまでの間、加盟国に「個別的又は集団的自衛の固有の権利」を行使することを認めている。この規定からわかるように、国家には、「個別的自衛権」と「集団的自衛権」という二種類の自衛権が認められている。
自衛権は武力行使禁止原則の例外なので、その行使には厳しい制約が課せられている。武力攻撃を受けていない段階で予防的に攻撃をすることは許されず、また、武力攻撃が終了した後に報復として攻撃をすることも許されていない。自衛権は、緊急やむを得ない場合に、武力攻撃を排除するのに必要な限度で許されるにすぎない。この点は、個別的自衛権であろうと集団的自衛権であろうと変わらない。
集団的自衛権は、個別的自衛権と違って、国連憲章を通じて初めて国際法の世界に登場した。比較的新しい権利であり、その本質をどのように理解するかについては見解が分かれてきたが、最も一般的なのは、「自国と連帯関係にある国が攻撃を受けた場合に、それを自国に対する攻撃とみなして反撃を加える権利」という見解。
集団的自衛権を国連憲章に導入するきっかけを作ったのは米州諸国。米州諸国は地域的な相互援助条約を締結し、侵略国が出てきた場合に共同で対処する構想をもっていたが、国連憲章の草案によると、そのような場合には安保理の許可が必要でした。ところが、安保理の表決に拒否権が導入されることになったため、常任理事国が1ヶ国でも反対すれば共同行動がとれないことになっていた。
そこで安保理の許可を得なくても共同行動をとれるようにするため、集団的自衛権という権利が作り出され、国連憲章に挿入されることになった。
このようにして生み出された集団的自衛権は、その後、国連に大きな課題をもたらした。国連憲章は、侵略国が出てきた場合に、すべての加盟国が協力してこれに対処する「集団安全保障方式」を採用している。しかし集団的自衛権が認められたことによって、相互援助条約には、敵国からの攻撃を想定した軍事同盟条約としての性格が備えられることになってしまった。軍事同盟は、敵国を想定しない集団安全保障方式とは根本的に相容れない。
こうして長く続いた冷戦期、東西両陣営は、集団的自衛権に基づく北大西洋条約条約とワルシャワ条約により軍事ブロックとしての対立を強め、国連の集団安全保障体制を根底から侵食していくこととなる。