totalism // totalitarianism
- 個人の権利や利益、社会集団の自律性や自由な活動を認めず、すべてのものを国家の統制下に置こうとする主義。独裁や専制政治などと同義に用いられる。
- cf.権威主義体制
- ムッソリーニは1925年の独裁への移行宣言のなかで、ファシズム国家を全体国家(stato totalitario)として特徴づけ、またナチスの理論家C.シュミットは全体国家を「国家と社会の同一化」として捉えた。
- したがって、国家の全体性にたいする信奉は、イタリア・ファシズムとドイツ・ナチズムに典型的にみられたものである。この意味で、全体主義という言葉はファシズム国家の支配形態の特性を示すものとして使われる。
- しかし、1920年代には全体主義理論の第二の特徴をなす見方が登場。
- イタリア・ファシズムとロシア・ボルシェビズムとの類似性に着目し、これら二つの体制においては、民主主義的な政党や諸勢力の抑圧、政治的反抗者にたいするテロリズムの使用がなされたというもの。つまり、ファシズム国家と共産主義国家はそれらを支える政党や階級から完全に自律していたという点で、類似している。
- このようなファシズムおよびナチズムと共産主義との同一視は、とりわけ当時のドイツ社会民主主義者の扇動や宣伝によくみられたが、そのさいナチスにたいしてコチス(Kommuniaten)という言葉も使われた。
- それゆえ全体主義という言葉は、議会制民主主義を防御しようとするさいに、そしてファシズムと共産主義との対抗において、社会民主主義者と民主主義者が用いた闘争概念でもあった。
- アレントの全体主義概念は、この第二の見方に近い。
- まず、自由を制限する権威主義的独裁と、自由がただちに廃止される全体主義体制とを厳密に区別する。全体主義体制成立の直接的前提になっているのは、社会的・思想的危機を導いた近代社会の原子論化と大衆化である。
- 全体主義思想は、不確定でアモルフハ(無定形)な人間に全体的な世界観を示し、それを限りないテロル(警察権力と強制収容所)の使用によって実現したのである。したがって、イデオロギーとテロルが全体主義的な国家形態の主要な特徴と考えられた。
- こうして、アレントは全体主義国家として、ナチズム国家とソヴィエト・ロシアのスターリニズム体制を挙げている。一方、イタリアのファシズム国家は権威主義的な体制として捉えられた。
- C.フリードリッヒ
- 全体主義をより一般的に捉える。全体主義的国家体制の特徴として、つぎのの6つを挙げる。
- 人間生活の全額域を包括するイデオロギー
- ヒエラルキー的に組織化され一人の人間によって指導される党の存在
- 敵対階級あるいは敵対民族に向けられるテロル体制の確立
- 報道の独占
- 物理的強制力の独占
- 経済の中央統制
全体主義の特徴とされているものは、過去の遺物ではけっしてなく、現代の第三世界の独裁国家にもみられるものである。その意味で、「全体主義」の問題を避けて通れない。けれども他面において、その概念がもっていたイデオロギー的性格にも注意を向けなければならない。
→個人主義
→自由主義