増分主義

「増分主義」についてのメモ。増分主義とは…
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annual-changing principle

増分主義 †

  • 予算編成の手法として、全年度予算を基準にそれにどれだけ上積みするかを考えて意思決定していく手法。
  • 長所
    • 膨大かつ複雑な予算編成作業にかかるコストの節減
  • 短所
    • 行き過ぎると既定の経費が既得権化し、見直しが不十分になる危険性がある。

政策決定>増分主義モデル †

  • 「増分主義」(incrementalism)とは,政策は基本的には過去の政策の延長であり,修正は過去のものに付加的,増分的なものにとどまるという考え。
  • 増分主義モデルは,政策決定の合理性モデルの批判として現れたもので,政治学者リンドブロムによるもの。伝統的な合理性モデルは「合理的・包括的」政策決定を想定するものであるが,それは非現実的である。政策決定者は,社会的目標のすべてと考えられるあらゆる政策代替案を考慮にいれ,それらの目標に関して政策代替案の便益と費用とを測定し,便益費用比や純便益によって政策代替案を順位づけ,そして最善のものを選択する,ということは現実には行わない。
  • 国民の価値意識や政治的制約からも,また方法論的にも,社会的目標を明確に確定し,政策の便益・費用を正確に計算することは不可能であるし,情報,時間,コストなどから,政策代替案とその結果を網羅的に把握することも可能ではない。
  • このような現実の政策問題の特徴と問題状況の複雑さから,政策決定のプロスは曲折したもので模索的に進行する。リンドブロムはそれを増分主義のほかに模索、‘muddling through’という言葉を用いて表現。
  • 現実の政策決定は増分主義によることが多い.増分主義においては,既存の政策プログラムや支出予算は基底と考えられ、それからの増加,減少,ないしは修正だけが注目される。
    • 予算の場合、前年度に対して何%増か何%減というかたちで決める。したがって政策決定者は一般に既存の政策プログラムの正当性を容認し,その継続に暗に同意し,それからの増分的変化(マイナスの変化も含む)しか考えない。
  • 増分主義が現実性を持つのは,合理性モデルの非現実性に対応した次のような理由による。
  1. 政策決定者は現在の政策に対するあらゆる代替案を検討するだけの時間,情報,能力を持ってはいない。
    • すべての情報を集めるコストは膨大であるし,各代替案のあらゆる結果を予測しうる能力は存在しない.また多くの社会的,経済的,文化的,政治的価値が関わる政策問題において,政策案の便益・費用をすべて計算することは不可能
  2. まったく新しい政策の結果についてはとくに大きな不確実性がともなうので,これまでの政策を踏襲する方が安全。
    • 政策決定者はその正当性を承認してしまう傾向がある。したがって過去の政策あるいはプログラムをそのまま,あるいはそれにわずかの増分的修正を施したものを採
      用し続けることになる。
  3. 既存プログラムにはすでにかなりの投資がなされており、サンク・コストが大きい。
    • 根本的な変化は妨げられる傾向がある。また組織には長期にわたってつくりあげられた慣性のようなものがあり,変えることの困難なルーチンや,組織や慣行の継続に個人的な命運をかけている人たちもあって,根本的な変化が難しい。したがって,政策代替案のすべてが十分に考慮されず、組織,行政などの面で大きな混乱をひきおこすことの少ない増分的変化のみを含んだものが選択される傾向がある。
  4. 増分主義は政治に受け入れられやすいという性格を持つ。
    • 争点が予算の増減とか既存プログラムの修正といったことだけであれば,政策決定において合意が得られやすい。それに対して巨大な利得か損失か,オール・オア・ナッシング,イエスかノーかといったような非常に大きな帰結に至る政策選択においては、利害衝突は深刻であり,合意形成に至るのが困難になる。大幅な革新的政策は実行可能性が低い。増分主義は,過去に承認した政策は増分的修正のみで将来にも継続させ,新しいブログラムは急激には導入しないということで,政治的コンフリクトと緊張を削減し,政治システムの安定性を維持するのである。
  5. 政策決定者,あるいは広く一般に人間の持つ特性もまた増分主義モデルに合致したものである。
    • 人間行動の満足化モデルによれば,人間はすべての価値を最大化するように行動することはほとんどなく,何らかの特定の要求を満足させるために行動するのがふつうである。人間はプラグマティックであり,唯一最善の方法をあくまで追求するといったことはほとんどなく,用が足りる方法,満足できる政策が一つ見つかればそこでそれ以上の探求をストップする。この満足できる政策の探究は,通常身近な政策,すなわち現行の政策に近い代替案から始められる。それらの代替案で満足できるものが見つからない場合にはじめて,もっと大福な革新的政策の探究に向かう。多くの場合,現行の政策の修正で満足し,また前述のように実行可能性もその方が高いことから,大きな政策変更は見送られる。
  6. 現在のような多元的価値社会において,社会的目標ないし価値については明確な合意形成はなく,政府にとっては社会的目標を定めた全体的政策決定よりも,現行の政策の持続を中心にした政策決定の方がやりやすい。

増分主義モデルは政策決定の実際を記述するモデルとしてきわめて現実性の高いものだが、他方、政策決定の指針としてはあまりにも保守的な性格の強いものである。






2007-03-10 (土) 21:44:36 (3786d)