ティボーモデル
- もし適切な公共財供給をしているかどうかが住民によって評価されることが可能であるならば,それは政府の業績評価となる。代表制民主主義論ではそれは選挙によってなされることになる。しかし,選挙は数年に一回行なわれるし,政権担当者の人気や人柄が重要な争点になることから政府業績評価と直接には結びつかないことがある。
- こうしたなか、注目されるのがチャールズ・ティボーの「足による投票」である。ティボーは、都心部から郊外に移ることを希望している人を例にあげて説明する。
- 人々が自由に自治体を選択することができるとするならば,どんな変数がその選択に影響を与えるであろうか?もし子供がいるならば、その人は教育支出に力を入れている自治体を選ぶかもしれない。またゴルフ好きの別の人はゴルフコースのある自治体を選択するかもしれない。
- 「消費者−投票者は彼の選好を最も満足させてくれる自治体に移る。自治体の数が多くなるほど,そして自治体間の違いが大きいほど,消費者は彼の選好をより完全に実現することに近づく」。
- ティポーのモデルでは,住民は明確な選考を有し,複数の自治体間でその違いを認識して選択することができ,そして自らの選好を最も満たしてくれる自治体に居住する。
- 「足による投票」とは住民は自己の選好を満足させてくれる自治体に住むことを望み,そうではない自治体からは離れることにより,意思を表明することである。住民の選好を満たす自治体にはどんどん住民が移住する,他方住民が不満をもつ自治体からは住民に離れていき,衰退する。
- このモデルの前提には自治体間の競争があり,住民の移動によってその自治体の評価が下される。住民の期待に応えない自治体は衰退する。そのことは自治体に緊張感を与え,住民の意向に敏感になるとともに,よりよい自治体運営を目指すことにつながる。
参考:足立幸男・森脇俊雅 編『公共政策学』(ミネルヴァ書房)
- 詳細を見ないと何とも言えないが、率直な感想は…
- 現在の日本で、それほど自治体間の移動が容易であるとは考えにくく、このモデルをそのまま適用することには無理があるだろう。「転勤」なるものを想起してもらえばよい。日本の労働市場はそれほど流動的ではないし、多様な就労形態を認めているわけではない。
- 自治体間競争というのにも疑問が残る。地方分権と言われて久しいが、現行制度下では、自治体の多様性を生み出すことは困難が予想される。
- もちろん、それが可能であるための制度設計というのは重要だと思うが。