中世思想

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中世の思想 キリスト教の興隆とスコラ哲学 †

  • ヘブライ民族(イスラエル民族)のユダヤ教を母体として,ローマ帝国の時代にイエスが生み出したキリスト教は,中世ヨーロッパの精神世界を支配した。キリスト教は思想・宗教だけでなく,教会という組織を媒介とし政治経済のうえでも大きな影響力を行使した。

(1)ユダヤ教とキリスト教

  • イスラム教・仏教とならぶキリスト教は,ヘブライ人の民族宗教(ユダヤ教)の選民思想・律法主義を克服することによって誕生。
  • ユダヤ教
    • エジプトの支配下にあったヘブライ人は,紀元前13世紀頃,モーゼに率いられてパレスティナに脱出し(出エジプト),ダヴィデ王・ソロモン王の時代に全盛期を迎えた。しかしソロモン王の死後,ヘブライ民族は北のイスラエルと南のユダに分裂。イスラエル王国はアッシリアに,ユダ王国は新バビロニアに滅ぼされた。
  • ユダヤ教の成立
    • 新バビロニアによる征服によって,多くのヘブライ人がバビロニアに連行された(バビロン捕囚)。このころ,ヤーヴェを唯一の神(一神教)とするユダヤ教が成立した。出エジプト・バビロン捕囚といった民族的苦難にさらされた結果,民族主義的色彩の強い宗教となった。当時のヘブライ人の生活と信仰は,『旧約聖書』に記されている。
  • 選民思想
    • ユダヤ教の第一の特徴は,イスラエル人のみが神によって選ばれ,排他的な恩恵を享受することができるとする点にある。選ばれた民はまた,世界人類の救済という使命を全うせねばならない。しかし時代とともにイスラエル民族のみ救済されるという民族主義的排他性が顕著になった。
  • 律法主義
    • ユダヤ教の第二の特徴は,神と人間との間に契約が存在するという考え方である。人間は神に対して神の下した律法(モーゼの十戒)を守る義務が,神は人間に対して救済と繁栄を実現する義務が課されている。しかし信仰が形骸化し,律法がただ形式的にのみ守られるようになった。
  • メシア思想
    • 民族の救済と繁栄を実現してくれる指導者をメシアという。この世の終わり(終末)にはメシアが現世に出現し,神の裁きが下されると信じられた。キリスト教では,メシアは全世界の普遍的指導者という意味をもつ。

キリスト教の成立と展開 †

  • 律法主義と民族主義的排他性に陥ったユダヤ教を批判し,信仰の純粋性と博愛主義を唱えたイエスが,キリスト教という新たな宗教を展開した。キリスト教は,ユダヤ教を母体として生まれたが,ユダヤ教がイエスをメシアと認めない点で両者は区別される。
  • 原罪と悔い改め
    • 原罪とは,人間は生まれながらにして罪を背負っているということを意味する。教義的には,アダムとイヴ(最初の人類)が神の命に背いたという事実に由来する。また原罪だけでなく,生きていくなかで背負ったさまざまな罪を悔い改め,イエスの言葉(福音)を信じることによって救われるとした。
  • アガペー
    • 形式主義的な律法主義や排他的な選民思想を克服し,普遍的で慈悲深い神への信仰と自己犠牲的な隣人愛の実践を説いた。このような神への愛・隣人愛にあらわれるようなキリスト教の愛をアガペーという。
  • 新約聖書
    • キリスト教の聖典は『旧約聖書』と『新約聖書』である。ユダヤ・キリスト教は神と人間との契約関係を基礎に成立する宗教であるが,そのうち『新約聖書』とはイエスの行動や言葉を記した福音書からなる。イエスをメシアと認めないユダヤ教徒は『旧約聖書』のみを聖典とする。
  • 原始キリスト教
    • イエスの処刑後,その教えはローマ帝国内に広まった。イエスの十二使徒であったペテロはイエスの復活を説き,パウロはイエスの死を人間の罪の身代わりであるという思想を打ち立て,信仰と布教をともにする原始キリスト教が確立された。またキリスト教は絶え間ないローマ皇帝による弾圧に耐え,313年コンスタンティヌス帝(ミラノ勅令)によって公認され,さらに329年にはテオドシウス帝によりローマ帝国国教とされた。

(2)中世のキリスト教神学

  • 中世ヨーロッパ世界は,政治経済的には封建制が,思想的にはキリスト教が支配する時代であり,古典古代に見られた民主制や自由な合理的精神は著しく抑圧された。このような事態をふまえ,中世は暗黒の時代とよばれている。その間,古典古代の遺産は8世紀に誕生したイスラム世界で保存され,東方貿易でイスラム文化と接触をもった北イタリア諸都市で再発見されることになる(ルネサンス)。
  • 教父哲学
    • 古代末には国教となったキリスト教は,さまざま公会議で異端と戦い,正統派の教義を確立していった。異端派と論争し教会の正統性を守った古代末の神学者を教父,その哲学を教父哲学とよんでいる。古代ギリシャ哲学,とくにプラトン哲学を利用しつつ,教義の体系化をはかった。キリスト教の正統派教義は,彼ら教父によって確立された。
  • 三位一体説と正統派教義の形成
    • 父(神)と子(イエス)と聖霊は三つの姿をとりながらも,その神性において一体の関係にあるという正統派の教義を三位一体説という。キリストが神なのか,それとも人間なのかという問題は,キリスト教にとって根本的な問題であった。イエスを神としないアリウス派と,三位一体説を唱えるアタナシウス派とがニケーアの公会議(325年)で争った。またエフェソスの公会議(431年)では,マリアの聖母性を否定するネストリウス派が異端とされた。
  • アウグスティヌス(354年〜430年)
    • 古代の教父を代表する哲学者で,三位一体説を完成させた。原罪を背負っている人間が,罪から救済されるのはひとえに神の恩寵によるものだとした。自らの信仰体験にもとづく『告白』(386年−387年)や神の国と地上の国とを比較して人間の歴史について論じた『神の国』(413年〜426年)が有名。また信仰・希望・愛をキリスト教の三元徳であるとした。
  • スコラ哲学
    • スコラとは教会付属学校で教授された哲学を意味したが,のちに9世紀から15世紀の中世キリスト教哲学をいう。中世を通して哲学は神学の下位に位置づけられ「哲学は神学の侍女」といわれた。スコラ哲学は,主にアリストテレス哲学を下敷きに展開された。
  • トマス=アクイナス(1225・6年〜74年)
    • ドミニコ修道会士でスコラ哲学の代表的人物であったトマス=アクィナスは,信仰と理性を区別し,信仰の理性に対する優位を主張した。また信仰に支えられた,神を項点とする教会国家を理想とした。主著に『神学大全』がある。

(3)イスラム教の成立

  • イスラム教は,キリスト教世界と対立しながらも近世以降の西洋文化の発展に非常に大きな影響をおよぽした。
  • イスラム教
    • イスラム教は,アッラーを唯一神とする一神教で,ムハンマド(マホメット)によって開かれた。聖典はアッラーの神がムハンマドに下した啓示を編纂した『コーラン』。イスラム教の一神教はキリスト教のそれより徹底化し,ムハンマドも神の子ではなく,最大にして最後の預言者と位置づけられる。またイスラム教のもとでは,イエスも預言者の一人であり『聖書』も聖典の一つとされていることから,ユダヤ教徒もキリスト教徒も,啓典の民とされる。ムハンマドは,622年メッカでの迫害を逃れるためメディナに逃れた。これをヒジュラ(聖遷)といい,イスラム暦紀元とされている。
  • ヨーロッパ社会とイスラム文化圏
    • イスラム世界とキリスト教世界とは,十字軍や国土回復運動にみられるように,表面的には鋭く対立したが,文化・学問の領域で西洋文明はイスラム世界に莫大な影響をこうむっている。
    • 中世〜近世にかけて,ヨーロッパ思想界はキリスト教教義の支配に服していたが,その間,古代ギリシャの文化的遺産は,イスラム世界に保存された。またインド思想とギリシャ思想という二大思想がイスラム文化において結び合わされることによって発達した高度な自然科学は,ルネサンス・近世自然科学の先駆となった。

(4)ルネサンス・宗教改革と合理的精神

  • 高度なイスラム教文化が東方で成立したころ,西洋社会はキリスト教が支配する暗黒の時代であったが,北イタリア諸都市ではじまったルネサンス,ドイツではじまった宗教改革は,西洋に新しい合理的精神をもたらした。また合理的精神の発達は,モラリストなどの懐疑主義を生みだした。
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     東方貿易で栄えた北イタリア諸都市にはじまった古典文化の復興連動をルネサンスという。中世のヨーロッパはキリスト教思想に支配されていたが,ビザンツ帝国の滅亡による同帝国の古典学者の亡命やイスラム文化との接触によって,非キリスト教的な古典文化が再発見されることになった。
  • [ルネサンスと人文主義]
    • 人間性を尊重し(ヒューマニズム),その解放をめざす思潮を人文主義という。ルネサンスの思想家は,普遍的な人間性(万能人・普遍人)を理想とし,その範を古典古代に求め,神中心の中世的人間観からの脱却をはかった。文学・芸術・思想の各領域に,人文主義が行き渡った。
  • 懐疑主義とモラリスト
  • 16世紀から18世紀にかけて社会や人間の道徳について,随筆形式を採用しつつ内省的な思索を展開した思想家群をモラリストという。宗教改革・ルネサンスやそれに続く啓蒙思想の流布によって,絶対的な真理(神・教義)に対する相対主義的・懐疑主義的な態度をとった。
  • モンテーニュ(Michel Eyquem de Montaigne,仏,1533年−92年)
    • さまざまな思想が乱立するなかで孤独な内省的思索を展開し,その成果を『エセー(随想録)』(1580年)にまとめた。彼の「われ何をか知る(Que sais-je?)」という言葉は,偏見や独断を疑い自己省察に没頭する懐疑論の特徴をあらわしている。
  • パスカル(Blaise Pascal,仏,1623年−62年)
    • パスカル(水圧機)の原理で著名な数学・物理学者。人間を「悲惨さ」と「偉大さ」,「有限」と「無限」の間を揺れ動く存在とみなし,このような人間のあり方を中間者とよんだ。またパスカルによれば,人間存在の矛盾を説明することができるのは,キリスト教だけであり,人々をその信仰へと導くために『パンセ(瞑想録)』(死後刊行)を著した。そこに登場する「人間は考える葦である」という有名な言葉は,人間は「葦」のように自然界で最も弱々しい存在でありながら,「考える」という点において,最も偉大な存在であるという彼の思想を表現している。パスカルは自然科学者であると同時に,心情や繊細な精神の重要性を認めるモラリストでもあった。
  • 宗教改革
    • 中世ローマ・カトリック教会の支配から精神的な解放を成し遂げたのが,宗教改革である。宗教改革は信仰の単位を教会から個人へ移行させることによって,個人主義だけでなく,近代資本主義を支えた独特の職業倫理をも生みだした。
      1)ルター(Martin Luther,独,1483年〜1546年)
    • ルターは免罪符販売に端を発して「95ヵ条の論題」を掲げて宗教改革の狼煙をあげ,信仰義認説と万人司祭説を唱えた。信仰義認説とは,寄付や善行などによって人間の信仰の正しさが決定されるのではなく,ただ内面的な信仰によってのみ正しさが証明されるという思想。万人司祭説とは,ローマ・カトリック教会におけるように,聖職者と信徒の権力的な上下関係にあるのではなく,キリスト者であるという点において平等であるとする思想をいう。主著に『キリスト者の自由』がある。
  • カルヴァン
    • スイスのジュネーブで神の権威に基づいて政治をおこなう神政政治を展開。この世の出来事は,すべて人間の側からは推測することも許されていない超越的な神の摂理によって決定されていると説いた。さらにその延長で,救済に関する予定説を展開し,来世における救済の如何は,人間の善行にかかわりなくあらかじめ決定されているとした。カルヴィニズムは,イギリスでは市民革命の原動力(1642年清教徒革命)となった。主著に『キリスト教綱要』(1536年)がある。

3)プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神

  • 貨幣の獲得や蓄財を卑しい行為とみなしたカトリック教会に対し,ルターやカルヴァンのプロテスタンティズムは,禁欲と蓄財に励み職業労働(Beruf calling)に能動的に取り組むことを神からのよびかけと解釈し,世俗世界において禁欲的な職業労働に従事することを神が与えた使命であるとした(職業召命説)。ドイツの社会学者マックス・ウェーバー(1864年−1920年)は,プロテスタンティズムの職業倫理が,近代資本主義を生み出す原動力となったことを明らかにした。近代資本主義がイギリス・オランダ・アメリカなどのプロテスタント国家で発達したことが以上のことの傍証となっている。

す舁的精神と自然科学

  • ルネサンスと宗教改革によって切り開かれた合理的精神は,まず自然科学の領域で成功をおさめた。コペルニクス(1473年−1543年)・ケプラー(1571年〜1630年)・ガリレイ(1564年〜1642年)による地動説の提唱や,それらを受け継いだニュートン(1643年〜1727年)の力学的自然観(万有引力の法則)が姿をみせはじめる。近世の思想は,彼らの力学的自然観を基礎に築きあげられたものである。





2007-03-10 (土) 21:45:39 (3731d)