発信箱:非ケインズ効果=潮田道夫
増税すると景気がよくなる。公共事業を減らしても景気がよくなる。財政政策の非ケインズ効果というらしい。いま注目の学説である。
むかし、ラッファーという学者は減税すると税収が増えると主張した。レーガン米大統領がやってみたら大赤字になった。経済学者はかくのごとくよたも言うから、うのみにはできない。
この説はどうか。非ケインズだからケインズと反対だ。ケインズは不況になったら、減税や公共事業をすると景気が回復すると説いた。
しかし、そうともいえないことが分かってきた。1983〜86年にかけてのデンマークや87〜89年にかけてのアイルランドの実証研究で、非ケインズ効果が確認された。増税や歳出削減で景気が上向いたのだ。
そのわけはこうだ。われわれは現在の収入だけでなく、将来の収入を考えたうえで、消費にまわす金額をきめる。他方、国は財政危機で増税が不可避なことを知っている。公共事業を増やせば赤字が増え、いずれ税金でツケをはらうことも理解している。
だから、減税や公共事業の追加があると将来の増税を警戒して消費を抑える。逆に増税や歳出削減が行われると、将来の割高な増税がないことを知り、消費を増やし景気がよくなる。われわれはばかではなく、政府の先回りをするのだ。
問題は非ケインズ効果がいつでもどこでも発生するわけではない、ということだ。いまの日本ではどうだろう。健全な家計感覚があれば、非ケインズ効果を見込んで言うのではないか。日本経済をよくするには増税こそ必要だと。(論説室)
毎日新聞 2004年11月12日 東京朝刊