福祉国家類型論

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福祉国家類型論 †

  • 埋橋孝文『現代福祉国家の国際比較―日本モデルの位置づけと展望』p149-155








福祉国家の特質を生み出す要因 †

 諸階級が政治的にいかなる連合を形成したかというその歴史的展開こそが福祉国家のバリエーションを生み出した決定的な要因。

三つの基準 †

 類型論は,各国の資本主義経済体制が持つ多様性に注目するもので、福祉国家の類型論も例外ではない。重要なのは,複数の資本主義経済体制が何をもって区別されるかということで、いかなる点に注目して,違い(=多様性)を見出すか,という点である。

  • 分類のためのものさしを何に求めるかが決定的に重要。
  • エスピン=アンデルセンの類型論は、資本主義および福祉国家の発展の歴史認識から演繹されて導き出されたものであるが,他方で,一定の操作のもとに数値化できる点に大きな特徴があり,以下の三つのものさしは,理論と実証の架け橋としての役割を果たす。

|商品化指標(de−commodification index) †

 直接的には,ポランニーに由来する「脱商品化」の概念であるが,ソーシャル・シチズンシップや社会的権利との関係を意識しつつ,「市民は,自由に,また,仕事や所得あるいは一般的な厚生を喪失することなしに,必要と認めた際に,労働から離脱(opt out)することができる」こととして再定義される。市場への依存を緩和する程度。
 公的扶助(生活保護)制度や社会保険制度は,それ自体としては,かならずしも脱商品化を促進しない。というのも,ミーンズテストをともなう公的扶助は,「最後の拠り所としての安全網(a safety net of last resort)」であるが,給付水準が低かったり,強固なスティグマをともなう場合,かえって市場への依存を強めることになるからである。
また,社会保険も,多くの場合,拠出制であり,受給資格(eligibility)・ルールは労働市場上の地位によって規定されているからである。

 この「脱商品化」の程度は,具体的には,老齢年金,疾病手当,失業手当の各制度に関して給付水準と資格要件の双方を勘案して算定される。

  • たとえぱ,老齢年金の脱商品化スコアは,次の3つの合成得点
    1. 現役生産労働者の平均収入に対する給付(平均給付と最低給付)の比率
    2. 平均給付の受給資格を得るために必要な拠出期間もしくは雇用期間
    3. 個人負担の割合

⊆匆馘階層化指標(stratification index) †

 脱商品化指標は,基本的にはマーシャル以来のソーシャル・シチズンシップをめぐる議論とも重なり,いわばオーソドックスなもの。
 これに対し,第二の指標である社会的階層化指標は,「福祉国家は不平等の構造に干渉し,是正する一つのメカニズムであるばかりか,それ自身が一種の階層化れステムである」というユニークな洞察に裏づけされたものである。しかも,「どのような種類の階層化が社会政策によって促進されるか」が問われる。つまり,この階層化は一元的尺度で測られるものではなく,次の3種類の階層化が区別されている。

  • 階層化の保守的原理
    • 社会統合のために,職種や職業上の伝統的な地位(status)関係一賃金労働者の中にも存在する階層差(divisions)−が保持される。具体的には,職業別に独立した社会保険制度の数,および公務員年金への政府支出がGDPに占める比率で測られる。
  • リベラル原理
    • 社会支出全体に占めるミーンズ・テストをともなう給付の割合,および年金や医療の分野でのプライベートセクターの比率で示される。ミーンズ・テストをともなう給付は,受給者にスティグマ(恥辱)感と一種の社会的制裁を加え,受給者と非受給者とのあいだでの社会的デュアリズムを促進する。
  • ソーシャリスト原理
    • 報酬比例でなくフラット・レートな普遍的制度の普及率と給付の格差で測られる普遍的制度は,報酬比例制度に比べて,社会的不平等を是正する機能をもつ。しかし,たとえ制度自身が平等志向であっても,高収入層はフラットな給付に満足せず,私保険への加入をめざすことになる。その意味で,普遍的制度はデュアリズムとまったく無縁だとはいえず、社会的階層化の一つのあり方であると考えられている。

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 エスピン=アンデルセン自身は「国家,市場,家族の相互の関係」を第三の指標としてあげている。しかし,前二つの指標と異なって,スコアリングの方法は明記されておらず,各国のスコアも示されていない。したがって,論者によっては,エスピン=アンデルセンの類型論の尺度からこれを除外しているのもある。あるいは,表の第四,第五欄に示されるプライベートセクターの比率がこの第三の指標に相当すると考えている研究者もいる。しかし,それでは階層化の「リベラル原理」との差異があいまいになってしまうという難点が生じる。しかも,その場合,国家,市場,家族のうちの「家族」の視点が抜け落ちてしまう。第三の指標をめぐるエスピン=アンデルセンの議論はやや不明瞭なところを残しているといわざるをえない。

三つのウェルフェア・レジーム †

 上の三つの指標にもとづいて,編成原理を異にする三つのレジームタイプ(リベラル,コーポラティスト,ソーシャルデモクラティック)が導かれる。
 以下,それぞれの性格を「制度」「帰結と特徴」「代表国」に分けて整理したもの。

リベラル・タイプ †

  • 制度
    1. 社会保障給付全体に占めるミーンズ・テストをともなう給付の比率が高い(逆にいえば,普遍的な移転システムの割合が低い)。したがって,給付は低所得層に重点的に支給される。
    2. 社会保険制度のウェイトは使い。
    3. 伝統的で自由主義的(リベラル)な勤労倫理が根強い。
    4. 給付水準はつつましく,受給資格(eligibility)は厳格であり,強いスティグマをともなう。
  • 帰結・特徴
    1. 脱商品化の程度は低い。
    2. 国の生活保障は最低水準保障にとどまり,国家は市場を通しての私的福祉システムを支援,育成する。
    3. 社会保障給付受給者と非受給者とのあいだで社会的デュアリズムが進展している。
  • 代表国
    • アメリカ,カナダ,オーストラリア

コーポラティスト・タイプ †

  • 制度
    1. 職業別・地位別に社会保険制度が分立している。
    2. 専業主婦(non-working wives)は,それ自体として,上の社会保険の被保険者から除外されている。家族手当は,既婚女性の専業主婦化を促進する。保育サービスやデイケア・サービスなどの公的対家族サービスは未発達である。
    3. 私保険およびフリンジ・ベネフィットの役割は小さい。
  • 帰結・特徴
    1. 階層間格差の維持に重点が置かれるため,垂直的所得再分配効果は低い。
    2. 市場効率や商品化の機能にはリベラル・タイプほど依存せず,代わって階層間格差の維持が重視されている。
    3. 国家の給付は,家族の各種扶養サービス機能・能力が枯渇した場合にのみ提供される。
  • 代表国
    • オーストリア,フランス,ドイツ,イタリア

ソーシャルデモクラティック・タイプ †

  • 制度
    1. 各階層が単一の普遍的な社会保険制度に加入している。
    2. 福祉国家諸施策は,普遍主義と脱商品化という二つの原理にそって編成されている。
  • 帰結・特徴
    1. リベラル・タイプのような低所得階層のあいだでの平等化ではなく,より高水準での平等化が推進されている。
    2. 国家と市場,労働者階級と中間階級のデュアリズムは存在せず,肉体労働者もホワイトカラーあるいは公務員と同レベルの給付・サービスを享受している。
    3. コーポラティスト・タイプと異なって,家族のキャパシティが底をついた場合に国が支援の手をさしのべるのではなく,家族(familyhood)・維持のコストを社会化する。
    4. 国家は家族構成員のニーズを充足するための給付・サービスの提供,女性の雇用進出を促進・支援するという重い社会サービス負担を負う。
    5. 福祉と労働が提携している。このレジームでは,(福祉)国家が完全雇用の保障に本格的に関与する。完全雇用の維持を基調としており,その達成に全面的に依存している。
  • 代表国
    • スカンジナビア諸国(デンマーク,ノルウェー,スウェーデン)

エスピン=アンデルセンの類型論の特徴 †

  • ウィレンスキー(Wilensky)の研究以来,GDPに占める社会(保障)支出の比率を手がかりにした研究が一つの有力な流れとなっていた。社会(保障)支出の比率を決めるものは何か,どういう背景から比率の高い国(福祉先進国)、比率の低い国(福祉後進国)に分かれるかに研究の関心が向けられたのである。こうした研究からはいくつかの異なった結論が導かれており,コンセンサスが得られているわけではない。
  • たとえば,ウィレンスキー自身は,経済成長と人口構造という二つの要因が社会(保障)支出の比率を規定するもっとも重要な要因であるという結論を得た。一方,Castlesらの「政治重視(Politics matters)」派は,政治的右派や左派の影響力をより重視している。
  • しかし,いずれにしても分類の基準は一元的であり,直線的なスケールの上での位置あるいはそのスケール上での移動が問題にされている。
  • エスピン=アンデルセンの分類基準は多元的・立体的であり,その結果,現実の福祉国家レジームのもつ多様性を十分に反映できる。
  • 上の社会(保障)支出の比率に注目する研究は,Hill and Bramleyの「福祉の生産モデル」に即していえば,インプットに注目して国際比較を試みようとするものである。エスピン=アンデルセンは,現実の福祉国家施策をブラック・ボックス化するものとして,このアプローチをしりぞける。

    「イギリスでは,サッチャー政権の期間に社会支出総額が増大したが,これはもっぱら高い失業率のため引き起こされたものである。特定のプログラムに支出される金額が低いことは,その当該福祉国家がより真剣に完全雇用の維持に努力していることを意味する場合もある」(p.20)

 たしかに,インプットという「入り口」だけに注目して福祉国家施策の全貌を論じるのは無理がある。これに対し、エスピン=アンデルセンの理論は,生産もしくはアウトプットといういわば「中身」にふみ込んだ国際比較類型論であると特徴づけられる。

  • エスピン=アンデルセンが考察対象とした国はいずれもOECD加盟の先進国であり,旧東側諸国あるいは日本以外のアジア諸国は含まれていない。
  • 出版は1990年であり,第局堯峺柩儿渋い砲ける福祉国家」では80年代半ばまでの統計資料が用いられている。しかし,事項索引にたとえば「福祉国家の危機」「サッチャリズム」や「レーガニズム」などの重要項目がみあたらず,類型論そのものは,70年代前半までの各国の展開を念頭において形づくられたものと見られる。

文献 †

G.エスピン−アンデルセン『福祉資本主義の三つの世界―比較福祉国家の理論と動態』(岡沢憲芙・宮本太郎 監訳)ミネルヴァ書房、2001






2007-03-10 (土) 21:48:12 (4212d)